無題に込める意味。

  • 蛇が俺を喰らう夢のなかで、俺は蛇を喰らっていた。俺が噛み破る蛇の尾は未来に繋がる希望への錯覚であり、俺を喰らう蛇の頭は清算する殺人鬼の哄笑を含んだ。双頭の愚か者はともかく、自分の尾を食らう蛇は遅からず死ぬとはいえ、頭だけはかならず最後に残る。口に入らない箇所も残る。尾を追いかけて回る子犬の戯言とは違うのだ。寿命にもにた運命を尽くす圧倒的な決意と狂乱、血の味への慣れだけが俺を蛇にする。
  • ウロボロスという化物にせよ、玄武という精霊にせよ、上記のイメージは神の成り崩れが人間に与えた一つの警告に端を発しているに違いない。愚者への警告は二つの教訓に別れ、四つの無害に変わり、仕舞いは、無数の馬鹿げたおとぎばなしに霧散する。教訓のシンプルさを思い出すのは説教するとき、あるいはされるとき、警告の危険を認知するのは朝だけでいい。
  • ということで目覚めは最悪だった。何を着ても似合わないような気分は吐き気交じりの絶望で、内臓は俺の意思を無視して動かず、心臓はわしづかみの宇宙に放りだされる。やれやれだといって座るリクライニングのチェアもまるで先客がいるかのような。
  • 隻腕の射手などいないという金言の意味の価値を値踏みする朝食や死体の腐乱匂にまみれた生まれたての雑草ども。刈られるだけの雑草にまとわりつく狩られるだけの狼を狩り殺しにいく夢を見る昼食の合間にある絶望となかよく暮らすだけの気分はない。
  • 手をあてて闇。
  • 腕で覆って病み。
  • 今日という日は、俺が死ぬための一里塚としてあるらしい。俺を殺そうとする悪が転がる地球にうんざりしながら、その使い魔たる近所の狐を殺すことしかできない己。その快楽におぼれる俺。その狂乱に惑れる俺の。蛇の夢はそういう暴力肯定木端微塵の幻惑魔導に似ているらしい。
  • 蛇に喰らう/喰らわれる朝は、切り替わるスイッチを探す朝でもある。このスイッチを奪いにくる女に犯される夢想の中でまどろむうちに昼。昼という意味のない記号の渦を仕事で埋める灰色たちの無残な幸福をあざ笑う余裕すらあるのに、女はまだ来ず、男もまた来ない。こないことは知っている。二つ名の間にある偽の本名ばかりが目にとまる空に浮かぶ認識の空欄にうずもれよ、うずもれよと悪魔はよくささやくが、俺は色盲がゆえに悪魔の言葉が神の宣託同様分からず、人間の置かれる立場が地球のどこにあるのかまったくわからない。そんなフリがいつのまにか得意になった。